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【アドラー心理学活用による社員育成】金メダリスト小平奈緒選手の躍進から学ぶ私的アプローチ【活用編】~

  • 人材育成・教育

前回は、小平奈緒選手のソチの屈辱から平昌での栄光への飛躍について、私なりの推論でアドラー心理学的に触れてさせて頂きました。小平選手はそのライフスタイルの中で、自己概念を大きく改新させ、その結果彼女の世界像も大きく広くなり、自己理想を一新させたことが飛躍の原動力になったのではないかという内容でした。
今回は中小企業経営者の皆様にとって非常に重要な“社員育成”について、小平奈緒選手の言葉も参考にしながら、アドラー心理学流に迫ってみたいと思います。

社員の方々のライフスタイルについて
本コラムの概要編でも触れましたが、アドラーのライフスタイルとは自己概念、世界像、自己理想で構成されています。特にその中でも“自己概念”が重要です。

自己概念について

人が正しいライフスタイルを構築する為に最も必要な事は、「自分で自分の事をどう思っているか?」ここがスタートです。ここを間違うと、世界像も理想の自分もあるべき姿から大きく逸脱したものになってしまいます。
例えば、とある例としてB君のライフスタイルが以下のようであったとします。

《自己概念》 私は、社交性に乏しく営業力がない
《世界像》  面白くない人間の私は営業に向いてないと思っている。
       顧客も本音では私を外して別の担当に代えて欲しいと思っている
《自己理想》 もっと社交性を身に着け、営業力を付けてお客様に好かれる存在になりたい

お客様に好かれる存在を目指すところは間違っている事ではありませんが、このような考え方で仕事に取り組んでいたらほぼ100%彼の理想を実現することはできません。そう簡単に社交性など人間の本質にかかわる特質を身に着ける事は出来ないからです。社交性を身に着けようとする事で努力するが、なかなか難しくそのうち挫折して、“やっぱり私はダメな人間だ”と更なる劣等感に苛まれるかもしれません。
この自己概念の良くないところは、アドラーの言う共同体感覚の自己受容を無視して間違った劣等感から来る自己否定から入っているからです。
まずここで注目して頂きたいのは、“私は社交性に乏しい ⇒ 営業力が無い”という論理です。
一般的にみて、営業は社交性の豊かな人が成功しているように思われるかもしれませんが、果たして本当にそうでしょうか?アドラーはこれを“見かけの因果律”と呼んでいます。
社交性と営業力は因果関係がある、営業として成功する為には社交性は必要十分条件である、という論理は誰も証明できていません。誰も証明できない事をあたかも因果関係があるように錯覚することを“見かけの因果律"と言います。
広い世界を見渡してみれば、社交性に乏しい人間でも営業として成功している人はいくらでもいます。お客様は、社交性のある人が好きでその人からモノを買いたいと思っているとは一概に言えないのです。更に、加えて彼の社交性に乏しい=自分の短所ととらえていることが問題です。
人には長所もあれば短所もあります。往々にして人は自分や他人の短所ばかり目に行きがちですが、まず自分であろうが部下であろうが長所に目を向けることが必要です。
自分の長所が思い当たらない場合には、簡単な方法があります。短所の裏返しを考えるのです。

短所 長所
社交性に乏しい 一人でじっくり考えるタイプで思慮深い性格
がさつである おおらかで人の失敗などに寛容
仕事のスピードが遅い 丁寧で慎重で堅実な仕事ぶりである
記憶力に乏しい 忘却力がある 過ぎた事にクヨクヨしない
根気がない 多方面の事に目を向ける複眼力を持っている

自分の短所はたくさん思い付くと思いますので、その反対の概念で、自分の長所に目を向けることが大切です。その上で、世界像を考えるのです。

世界像

社交性に乏しいから、みんな自分を営業として役に立たないと思うのではなく、反対の概念で捉えるのです。
社交性に富んだ営業が多い中で、私のような思慮深いタイプの営業を好んで待っている人が必ず存在する。
あるいは、自社の部門には、社交性に秀でた営業ばかりがいるが、私のようにじっくり考える営業はいない。
だから、組織が暴走し始めた時に、私はブレーキ役としての役割を果たすことができ、その役割は組織の為に非常に役立つことになる。

次に、それらに基づいた自己理想を掲げます。

自己理想

私の稀な存在である、じっくり考える営業の力を使って、お客様の話をしっかりと聞き、お客様が本当に求めている潜在的なニーズを発見して、心から喜んでいただける提案を行い、お客様に感謝される私流の営業スタイルを確立する。

このように、自分の性格の悪い面にだけ着目して、狭い世界の中で鬱屈していたのを、自分の長所に目を向けることにより、より大きな世界を見ることが出来るのです。それにより、自分の目指す自己理想も大き く変わったものとなって行きます。
ちょうど、小平奈緒選手が、メダル・順位にこだわり、自分のお世話になった支援者の世界にしか目が向いていなかったのが、自分は本当何がしたいのか?を問う事により、
“メダルが欲しいという事が自分の一番したい事ではなく、私はスケートが大好きなのだ、大好きなスケートの究極を極めたい。それが私の思いであり、それを追い求める姿が「求道者小平奈緒」だ”
“そして究極の滑りを実現した時の何とも言えない景色をこの目で見、肌で感じることが自分の理想だ”
と自己概念を大きく変えたことにより、彼女の世界像は周囲の支援者という人だけではなく、世界中の万物に及び、それら全てのモノから学べるんだという世界像に大きく変化します。 『与えられるものは有限、求めるものは無限』

正しい自己概念を持っていても、世界像が良くない為に思ったような成果が上げられない人もたくさんいます。
自分の事はそれなりに理解して、長所を活かそうとしているのですが、その先が他者に向かず、自分に向いているケースです。

他者への関心

アドラーはこう言います。
『他人のことに関心を持たない人間は苦難の道を歩まねばならず、他人に対しても大きな迷惑をかけることになる』

経営者の方の中には、うちの社員はみんなお客様を大切にしているよ、と思う人もいます。しかし、現実を見ると意外にそうではないケースが見受けられます。
例えば、豆腐製造業の会社で、スーパーを中心とした得意先を担当する営業の方がいて、主に得意先から棚の一部分を任せてもらい、商品を補充で納品しているケースがあるとします。
彼は、冬は鍋物シーズンなので鍋には豆腐が一番と言って一生懸命、豆腐の営業に回ります。しかし彼の営業スタイルは、どこのスーパーに行っても同じスタイルでした。彼は本当に他者に関心があるのでしょうか?私はそうではないと思います。
これは、彼は他者すなわち得意先のスーパーやそこで買い物をする消費者に関心があるのではなく、自分の営業成績にのみ関心があるのです。一生懸命頑張っているので、本人も上司も彼は顧客思いだと勘違いします。本当に他者に関心を抱いている営業のスタイルは異なります。例えば、以下のような例があります。

ある営業が、たまたま営業中に風邪をひき、得意先の近くのクリニックに行きました。非常に混んでいてずっと待っていましたが、そこに訪れる患者さんが年配の方が多く、血中コレステロールを下げる薬をもらっている人が多い事に気づきます。そこで、彼は、豆腐の持つレシチンという成分に目を付けます。レシチンの機能の一つは、その強い乳化作用によって、血管に付着したコレステロールを溶かし血流の流れを良くする、あるいは固まるのを防ぎ付着しないようにする働き(脂肪代謝機能)です。
彼は、自分の任されたスーパーの棚にPOPで“レシチンの効能”とうたい、コレステロールが気になる方は当社のレシチン豊富な豆腐をぜひ食べて健康になって欲しいというメッセージを掲示します。
結果、そのスーパーでは彼の豆腐は飛ぶように売れ、スーパーも消費者も喜んだと言います。同様に、彼は、別のスーパーではその販売エリアに女性層が多いことに着目し、今度は豆腐の栄養素であるイソフラボンに着目します。イソフラボンは、女性ホルモン(エストロゲン)と似た働きをする点で、更年期過ぎなど女性ホルモンの減少によって起こる諸症状に効果が期待されており、骨粗鬆症や更年期障害等で起こる高血圧・コレステロールの抑制、循環器疾患のリスク軽減効果を同じようにPOPにして告知しました。

彼は、自分の営業成績を上げるかどうかは結果であり、得意先であるスーパーとそのエリアの消費者に喜んでもらえるよう他者貢献することを第一の目的としたのです。こういった姿勢がお客様思いであり、他 者に関心を持つという事であり、本当の他者貢献と言えるのではないでしょうか?

『支えてくださる方々、私の取り組みを伝えてくださる方々、皆さんを笑顔にする瞬間を刻んでいきます』 (2017年10月) 『誰かの心を動かせていることが、とても嬉しいです』 (2017年11月)

小平選手は、自己概念をきちんと確立したうえで、広い世界像を抱き、理想の自分を掲げたのです。

上記の例でご紹介した豆腐製造業の営業の方の自己理想とは、さしずめ自分の豊富な商品知識とPOP等の作成する能力やマーケティング能力を活かして、自分が担当する得意先のスーパーの売上アップに貢献して、そのエリアの消費者の方々に健康になってもらい日本一のコンサル的豆腐の営業を目指すといったところでしょうか?

部下育成について

経営者の皆様の中には、部下の方が思うような成果を上げられずに苦しんでいる姿を頻繁に見かけられると思います。そんな時、どうしていますか?
 「元気出せよ!」
 「また良いこともあるよ!」
 「たまたまだよ、君は力があるんだから頑張れよ!」
これではアドバイスにもなっていません。その場限りの気休めを言っているだけです。
 「君の営業スタイルがそもそも間違っているんだよ」
 「自分のやり方間違っているんだから、根本から考え直せよ」
 「同じ失敗ばかりして、学習能力ゼロかよ」
これはいわゆる全否定です。この叱咤をされて、彼の成果は上がるようになるでしょか?
これをアドラーは“勇気くじき”と呼び、自己受容して共同体感覚を発揮しようとする部下の行為を踏みにじる最もしてはいけない行為だと言っています。

① まず必要なのは、即効性を求めないことです。時間がかかるという事を上司が覚悟することが大切です。アドラーは、人間は“勇気さえ持てれば3日で変われる”と言いました。裏を返せば自分で決断してから最低3日間かかるという事です。
上司の一言や二言で解決できるような問題であれば、上司の力を借りなくても充分自分一人で解決できるはずです。部下が苦しみ悩んでいるわけですから、その悩んだことにリスペクトしたうえで上司も腰を据えて取り組もうと覚悟することが必要です。
よく、ある人の一言によって自分は救われたとか人生を変えられたという事を耳にしますが、たった一言をかけられただけで人生が一変するほど単純ではありません。そういうことは、上司や周囲の人々と色々と 真剣に時間をかけて話し合っていた時に、ふと上司が口にしたその一言で心が救われたと言うのが実態だったと思います。

② 次に部下と自分を対等の立場に置くことです。(常時この考えが必要です)
先回もお話ししましたが、アドラー心理学ではどんな人間関係でも上下関係を否定しています。すべてが横の関係です。
上司と部下、親と子、夫と妻、先輩と後輩、社長と新入社員 教師と生徒、売り手と買い手、ライバル関係、全て対等の関係でありお互いリスペクト(尊敬)し合う存在であるという意識を持つ事が大切です。
いつも経営者の方やマネージャの方に私は申し上げていますが、そもそも

“役職の違いは役割の違いであって身分の違いではない”
という事です。それを身分の違いと勘違いすることにより、上から目線が生まれるのです。すべては横の関係なのです。上から目線ではダメなのです。“叱る”はもちろん、“褒める”事もアドラーは否定しています。
叱るも褒めるも、上の人間が下の人間にいう言葉であり、これでは従属意識から抜け出せない事になり、自己責任感情や自律した感情が育たないといいます。

『「よくできたね」とほめるのではない。「ありがとう、助かったよ」と感謝を伝えるのだ。感謝される喜びを体験すれば自ら進んで貢献を繰り返すだろう』
『叱られたり、ほめられたりして育った人は、叱られたり、ほめられたりしないと行動しなくなる。そして、評価してくれない相手を、敵だと思うようになるのだ。』

③ 過去に目を向けず現在・未来に目を向けることです。
「どうしてそうなったの?」「こうなってしまった根本原因は何なのだ?」そういった原因追及は、上司の描く理想からのマイナス(引き算)の話題にしかつながりません。
だから、そこから間違っていた、その時のここが間違っていた、そういう会話になってしまいます。
こういう原因論ではプラスになる事は何も言いません。結果的に、だから君のココが間違っているんだ、という話になってしまいます。
アドラーは原因論ではなく目的論で語るべきであると言います。
目的論とは“人間の行動にはその人特有の意思を伴う目的がある”というものです。
その部下の自己概念や世界像から導き出した自己理想の目的を、これからどうしようか?と一緒になって考えてあげる事です。

ある得意先からとんでもないクレームが来たとします。その時に、何故そうなったのか?どこがいけなかったのか?といった原因論で追究するのではなく、目的論で相談に乗るのです。部下のここに至った経緯をじっくりと聞き、自分(上司)ならどう対処をしていたかを心の中で比較します。ある時点で、自分(上司)と異なる対応をしたと気付いた時、何故彼がその行動に出たのか?彼の目的から探るのです。ひょっとしたら、“叱られるのが怖くてお客や上司に嘘をついたのかもしれません”その結果、嘘が嘘を呼び、対応が遅れ大きなクレームになってしまったとしたら、彼が何の目的で嘘をついたかの目的を考えるのです。

例えば、上司に対して必要以上の恐怖感を持っていて、嘘が出た。
自分をクレームなんか発生しない優秀な営業であると実態以上によく見せようと思っている為に嘘をついた。
彼の目的は、自分が優れた営業であると見せたかった。など、これらが彼の目的です。
そのような場合、
 どんな優秀な営業でも、クレームは必ず起こり、失敗もする事
 失敗したくらいで、きつく叱ったりしない事
 彼の事を信用して、非常に優秀な営業であると思っている事
 もっと優秀になる為に、早めに手を打つことと、嘘はつかず本当の報告をあげることが必要である事
このように指導すれば、彼も同じような場面に遭遇した時に違った対応をしようとするのではないでしょうか?
『大切なことは共感すること。共感とは、「相手」の目で見、「相手」の耳で聞き、「相手」の心で感じることだ』
『もっとも重要な問いは「どこから」ではなくて「どこへ」である』

④ そして、彼の自己概念、世界像、自己理想に着目してしっかりと話を聴くことが大切です。
大事なのは、強制しない事です。〇〇すべきだ、〇〇しなさい、と言わない事です。
自分で考えさせるのです。前回触れた、課題の分離をきちんと行う事です。部下が成功するかどうかは、部下の課題であって経営者の課題ではありません。経営者や上司は応援団でしかなく、彼に代わって人生を歩いたり、最終的な責任を負ってやることはできないのです。
『自分の人生は自分で決めることができる』
『全ては自己責任である』
『人間は自分自身の人生を描く画家である どんな絵でも自分自身で引き受けねばならない』

このように、社員のライフスタイルを健全なものにすることによって、彼が共同体感覚を持って生きていくことを支援するのです。共同体感覚は、先回も申し上げたように自己受容・他者貢献・他者信頼の3つがセットになって発揮されます。この社員の皆さん方の“幸せになる勇気”を発揮しようとする姿勢を“勇気づけ”して頂きたいと思います。健全な自己概念を抱けば自己受容できます。健全な世界像を描けば他者貢献に意識は向かいます。
自分の追い求める自己理想が他者への信頼につながり、より共同体感覚が成長します。
社員育成の原点は、社員の皆さんの共同体感覚に対する勇気づけであると思っています。

最後に、平昌オリンピックでの小平奈緒選手の共同体感覚を象徴する出来事をお伝えして結びとさせて頂きます。
500m滑走を驚異のオリンピックレコードの36秒94で先に終えた時、会場内は興奮のるつぼと化します。
小平選手の素晴らしい記録に沸き立ち、特に日本人応援団は大歓声をあげます。
小平選手は、歓声のあがる会場の観客に次の選手が集中できるよう、口元に指をあてて「シーッ」のポーズして静かにするように要請したのです。
次の滑走者はライバルの世界記録保持者、地元韓国の李相花選手でした。
李相花選手のレースのため静粛に願いますとポーズをとっていたのです。
彼女の自己理想は4年前のような“金メダルを取る事”ではなく“自分の究極のスケーティングをする”という事に変わっていた証明だと思います。
今の自分として満足できるスケートをこの大舞台でできた。
ライバルである李相花選手にも自分の納得のできるスケートをして欲しい。
その為に会場の観客の皆さんや日本人応援団の方々も、李選手が集中して納得のいくレースができるよう協力してあげて欲しい。
素晴らしい共同体感覚です。彼女はライバルはもちろん観客を含めたすべての世界に対するリスペクト(尊敬感情)を持っていたと思います。

『私は人よりも遠回りしているような人生の選び方をしている。まだまだできるかなと思います』
『そこに「ない」から、手に入れるための手段や方法、時間をつくる。そういう環境に身を置いていること自体が、創造の一部』
『私が自信を持っているのは自分の人生、人生というか自分の生き方は自分で決める、自分で選択することができるという部分に対しては、本当に曲げずにここまで歩めて来れたので、覚悟をもって自分の進みたい道に行くという部分では、すごく自信を持っています』
『ソチ五輪は、みなさんが望むような結果が出ませんでした。私自身も実力を出し切ったのにどこか届かない思いがありました。ソチ五輪の後、オランダでスケートの文化を学びたいと言うことで現地に行きました。環境を変えることにすごく勇気がいりました。家族やコーチは同行せず、一人だったので……現地で親身になってスケートを教えたコーチや、たくさんの選手に支えられました。その人たちみんなが家族なんだ。そう思って生活できたことが、私の生き方を変えてくれたと思っています。また、オランダに行ってすぐに父からあるメールが来ました。“奈緒の人生は神様がくれた時間だから、悔いのないように思う存分に使え”という文面でした。それが、それからの生き方を支えてくれました。今につながっているんじゃないかなと思います』

これからの小平奈緒選手のますますのご活躍と皆様方の更なる健全な経営を心よりお祈り申し上げます。
長きにわたってのご愛読、誠に有難うございました。
※緑字は小平奈緒選手のインタビュー等の内容からの引用です
※青字はアルフレッド・アドラーの言葉からの引用です

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