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【アドラー心理学活用による社員育成】〜事例研究 金メダリスト小平奈緒選手の躍進から学ぶ私的アプローチ【概要編】〜

  • 人材育成・教育

2018年平昌オリンピックのスピードスケート女子500mで五輪新記録をたたき出し、見事に金メダルを獲得した小平奈緒選手。彼女は、バンクーバー、ソチ、平昌と3度オリンピックに出場しています。

『そうですね、まぁ一言でいえば、バンクーバーオリンピックは「成長」だったなと……
ソチオリンピックは「屈辱」だったな……今回のオリンピックは、なんていうんですかね……また「成長」なのかな。 やっぱり成長するということは学びの多い大会になったということだったと思うので、ソチオリンピックは本当に苦しかったんですけれども、今回またスケートの楽しさを思い出させてもらえたオリンピックだったのかなと思います』
『私が他の方々を見ても、それぞれどんな人を見ても、みなさんすごいなって思う部分があるので、これだけは負けないという部分を探すのがすごく難しいんですけれども……ただ、負けないというよりは、私が自信を持っているのは自分の人生、人生というか自分の生き方は自分で決める、自分で選択することができるという部分に対しては、本当に曲げずにここまで歩めて来れたので、覚悟をもって自分の進みたい道に行くという部分では、すごく自信を持っています』
『う〜ん、3つ……。私を表す言葉3つですよね…… 「求道者」「情熱」…………「真摯」だと思います』
(自分自身をアスリートとして、人間として、表現する言葉があれば、3つ教えてほしいという質問に対して)
(2018年2月19日 金メダル獲得レースから一夜明けての記者会見)

小平選手は本人が言うように、4年前のソチオリンピックでは周囲の期待に応えられずに思うような成績が残せませんでした。その彼女の言う屈辱から如何に立ち直り、平昌での金メダル獲得に至ったのか?
彼女のここ4年間の言葉を見る限り、私はアドラーの言う新たなライフスタイルの選択による“共同体感覚”の再構築に一因があったのではないかと思っています。
小平選手が、どのようにして4年前の屈辱から今回の偉業にたどり着いたのか?
その言葉を参照しながら、アドラー心理学理論に基づき、彼女が躍進を遂げた意識の変革とその選択と行動について考えてみたいと思います。
アドラー心理学のこの根本思想は、皆様方の会社での人材育成を行う上でも非常に役立つことと思われます。
是非とも、ご参考にして頂き、皆様方の健全な組織運営の一助にして頂ければ幸いです。

アドラー心理学の概要① ライフスタイル

アルフレッド・アドラーは19世紀末〜20世紀前半に活躍したオーストリア出身の精神科医、心理学者です。
フロイト、ユングと並んで心理学の三大巨匠と言われ、昨今、日本でも働く人たちの間でブームとなり、その関連本はベストセラーに輝き、テレビドラマの題材にも使われるようになりました。
まずは、僭越ながらアドラー心理学の概要の一端をご紹介させて頂きます。

アドラーは人間が劣等感を感じるステージから、優越感を覚える方向を目指して行動していると言います。その努力の方向性が正しい方向性であれば成長を促進し幸せへと進んでいきますが、間違った方向性に向けて努力して行けば停滞し成長することなく非常に不毛な人生になってしまうというのです。
その正しい努力の方向性とは、個人個人が持つ望ましいライフスタイルをベースに他者への関心と共同体感覚を身に着けることによって可能であるとしています。
馴染みのない方にとっては、チンプンカンプンだと思います。以下、簡単に概略をお話しします。

アドラーの言うライフスタイルとは?我々が日常的に使用している言葉としてのライフスタイルではありません。
我々の馴染みのあるライフスタイルの概念は、生活様式などの暮らしに関わる、どちらかと言うと外面的なものを指しますが、アドラーの言うライフスタイルとは完全に内面的、心の中の価値観のようなものを指します。

『ライフスタイルとは、人生の設計図であり、人生という舞台の脚本である。
ライフスタイルが変われば、人生はガラリと変わるだろう』
『幸福な人生を歩む人のライフスタイルは、必ずコモンセンスと一致している。
ゆがんだ私的論理に基づく性格では、幸せになることはできないだろう』

アドラーの言う“コモンセンス”とは、単なる常識という意味だけではなく、共同体すなわち社会にとって価値のあるものの事を指します。社会にとって価値の薄い常識もあるので注意が必要です。人間は自分の“ライフスタイル”を自ら選んでいて、今、不幸なのは選んでいるライフスタイルが好ましくないからであり、ライフスタイルをもう一度コモンセンスに合ったものに選び直せばいいという事です。

アドラーのライフスタイルは以下の3つで構成されています。

  • ・自己概念
    今の自分自身の捉え方を意味します (私は〜である)
  • ・世界像
    自分のいる環境の捉え方や周囲の人間への抱くイメージを意味します (周囲は〜である)
  • ・自己理想
    自分や自分を取り巻く環境などのあるべき姿や形を指します (私は〜でなければならない)

例えば、以下のようなものも、その人のライフスタイルです。仮にA君と名付けておきましょう。

  • ・自己概念
    私は性格が暗いので、他人には好かれない。だから失敗ばかりしている
  • ・世界像
    周囲の人は、私の事を好きではないと思っているので相手にしない。私を避けようとする
  • ・自己理想
    他人と接触したら傷つくし、不快感を与えるので、できるだけ他者との接触を避け控えめにしよう

このようなA君の劣等感の塊のようなライフスタイルでは、他者との接触を避けるので共同体感覚を身に着けることはできず、不毛な人生になってしまいます。自分は他人には好かれないという観念があり、人の要求に対して極力自己主張することはせず、全て受け入れることになるでしょう。結果としてA君は他者に支配される人生を選択しているのです。
アドラーは劣等感を否定しません。劣等感があるからこそ、人類はそれを克服しようとして進化して行ったのだと言います。

『劣等感を言い訳にして人生から逃げ出す弱虫は多い。しかし劣等感をバネに偉業を成し遂げた者も数知れない』
『あなたが劣っているから劣等感があるのではない。どんなに優秀に見える人にも劣等感は存在する。目標がある限り、劣等感があるのは当然のことだ』
『健全な劣等感は、他人との比較からではなく、理想の自分との比較から生まれる』

劣等感は成長の原動力になり得ます。劣等感は現状に対しての欠乏感を生み出し、それを克服してより良い状態にありたいという思いと克服するための努力が人類を進歩させたと言っています。しかし上記のようなライフスタイルのA君はこのままでは一歩も前に踏み出せません。
彼は、傷つくことを恐れ何も変えようとはしていなく、他者への関心も自分で避けようとしているからです。
アドラーはこう言います。

『できない自分を責めている限り、永遠に幸せにはなれないだろう。
今の自分を認める勇気を持つ者だけが、本当に強い人間になれるのだ』

本当に成長させたいなら、“勇気”を持つことが必要であるとします。
まずは自分自身を認める勇気が必要です。アドラーはこれを“幸せになる勇気”と呼びます。
A君がかつてのライフスタイルを捨て、次のようなライフスタイルに考え方そのものを劇的に変化しさせたとしましょう。

  • ・自己概念
    私は暗いように見えるがネクラなのではない。根が優しく相手の話を真剣に聴く人間なのだ
    何度も失敗しているが、それだけ失敗の痛みを知っていて、人より多くチャレンジしているのだ
  • ・世界像
    世の中には私のような優しさを必要としている人が数多くいる
    私が失敗してきた多くの経験を教えて欲しいと思っている人が必ず存在する
  • ・自己理想
    私と同じように、自分をネクラで失敗ばかりしている恥ずかしがり屋の性格だと思って悩んでいる人に幸せになる勇気を持ってもらえるよう応援して貢献したい
    私のたくさんの失敗経験を、持ち前の私の優しさでいたわって助けてあげたい

このように自分自身を認める“幸せになる勇気”を発揮しようとした時には、必ず世界(外部)に出て行って周囲の人たちと積極的に交わらねばなりません。今まで、内向的に自分の殻の中に閉じこもっていたA君にとっては一大決心が必要です。周囲の人たちと接触しようとしたら断られるかもしれません。断られた事によって恥を掻いてA君は傷つくかもしれません。それをアドラーは“嫌われる勇気”と言いました。

『勇気とは困難を克服する活力の事だ。勇気のない人が困難に出会うと、人生のダークサイトへと落ちて行ってしまうだろう』

アドラー心理学の概要 共同体感覚

この新たに決心したライフスタイルをベースに外部との交わりを行い、世界(周囲)に貢献することを“共同体感覚”と呼び、この“共同体感覚”を身に着ける事によって、他者がいる世界に飛び込んで、他者と関わることができ、それにより人は「劣等感」を克服し、飛躍の原動力に変え得るというのです。
アドラーの言う共同体とは、自分以外の周囲全部の事を指し、もちろん家族や学校、職場、国、世界、地球、宇宙、それらのすべてを指します。それは、人だけではなく万物すべてとの交流を含めるのです。そして、共同体感覚とは、世界(周囲)を仲間とみて、自分がそこに居場所を見つけその人たちに貢献しようとする姿勢です。

『幸せの三要素は、自分自身が好きかどうか。よい人間関係を持っているかどうか
そして、人や社会に貢献しているかどうか』
『人は全体の一部であり、全体とともに生きている』

人生の意味というのは、世界(周囲)への貢献であると言っています。他者とは世界の一部であり、自分自身への執着から他者や周囲への関心へ切り替える事によって、全体とともに生きようとする意欲や意識が生まれ、それにより成長することが出来、幸福感が生まれてくると言っています。その為には共同体感覚が必要不可欠になります。

『自分自身の幸福と人類の幸福のために最も貢献するのは共同体感覚である』
『人生の意味は全体への貢献である。人生の意味は貢献、他者への関心、協力である』

そして、その共同体感覚を持つために必要な事として、以下の3つを挙げています。

・自己受容 ありのままの自分を受け入れる
・他者貢献 自己受容の結果、その受容された自分の長所をどう活かして他者に貢献するか
・他者信頼 他者を仲間だと思って信頼する事

『重要な事は人が何をもって生まれたかではなく、与えられたものをどう使いこなすかである』
『“信用”するのではなく、“信頼”するのだ。“信頼”とは裏付けも担保もなく相手を信じる事。
裏切られる可能性があっても相手を信じるのである』

すなわち、まず現在の自分をありのまま受け入れ、それを長所だと考える事。その長所を他者の為に如何に活用し貢献できるか考える事。そして、他者そのものを信頼しきる事。この3つがセットになって共同体感覚が醸成されるというのです。

更にその共同体感覚を養う上で、大切なものとして“勇気づけ”を挙げています。
まず自分自身を勇気づける事。自分自身を価値ある存在だと長所に目を向け自分を信じることが第一歩です。
次に、他者に対しても勇気づけしてあげる事。他者が貢献しようとしているにも拘わらず思うような成果が上がらなかった時に、何故そうなったのか?の原因追及ばかりに目を向けこれから先の事は自分で考えろと言わんばかりの態度をとったり、マイナスの面ばかり指摘し理想からの引き算で他者を叱るなどの姿勢を、アドラーは“勇気くじき”と言って勇気づけの正反対の概念で説明しています。
勇気を持って自分のライフスタイルを変え、他者と関わり合い貢献しようと取り組んでいる人を、勇気づけできればその人は“自分に価値がある”“自分の行おうとしていることの方向性は間違っていない”と勇気が持てるようになります。そういった共同体内の相互の勇気づけによって、個人も組織も課題を克服し成長して行くのだという事です。

『人の心理は物理学と違う。問題の原因を指摘しても、勇気を奪うだけ。解決法と可能性に集中すべきだ』
『人は“貢献感”を感じ“自分に価値がある”と思える時にだけ勇気を持つことが出来る』

人間は、誰しも劣等感を持っています。その劣等感を克服するために優越感の追求を行います。
以前のA君のライフスタイルは、自分をネクラだという劣等感からスタートして他者が自分を相手にしないと規定し周囲の世界は自分を受け入れないと捉えています。従って自分が他者と交わらず大した貢献をしないのは、自分を受け入れない世界(周囲)が悪いので、そのような排他的な世界とは私は距離を置いて暮らすのだ。
このA君の選択したライフスタイルも優越性の追求です。

“自分の現状は生まれつきの性格を受け入れない世界が引き起こしたもので、私には責任はない。だから私は社会とは縁を切っているのだ”

という優越感に浸っているのです。
これでは、いつまでたってもA君は他者への関心や共同体感覚を持つことが出来ず、他者貢献も非常に低いものになってしまいます。それ以上に彼はこれで幸せといえるでしょうか?

『人間は自分の世界を描く画家である。あなたを作ったのはあなた。これからの人生を決めるのもあなた』
『人は過去に縛られているわけではない。あなたの描く未来があなたを規定しているのだ。
過去の原因は“解説”にはなっても“解決”にはならないだろう』

まとめ

  • 人間は誰しも劣等感を持っており、優越性の追求に向かって進んでいる。
    その努力の方向性によって、幸せにもなり不幸にもなっていく
  • 肝心なのは個人個人が持つライフスタイルであり、これを変えることにより劇的に人生は変わる
  • ライフスタイルは、自己概念・世界像・自己理想の3要素で構成されており、特に正しい自己概念を持つことが大切である
  • 正しいライフスタイルを構築した後は、共同体感覚を持って、世界(周囲)を仲間とみて自分の居場所や存在価値を見つけ、その人たちに貢献しようとする姿勢が大切である
  • 正しいライフスタイルを構築する為には、“幸せになる勇気”と“嫌われる勇気”が必要である
  • 自分に対しても他者に対しても“勇気くじき”を行わず“勇気づけ”を行う事が大切である

如何でしょうか?今回は、アドラー心理学の全体像を中心にお話しさせて頂きました。
これからはいよいよ本題に入り、アドラー心理学から見た、小平奈緒選手と社員育成の内容に迫っていきます。
次章以降以下の内容で進めさせて頂きます。どうぞご期待ください。

第2回【詳細編】
小平奈緒選手の4年前の屈辱から平昌の栄光への飛躍についての考察
〜アドラー⼼理学流の私的分析〜
第3回【活用編】
アドラー心理学活用による社員育成事例紹介
〜⼩平奈緒選⼿の⾔葉から学ぶ社員育成〜

※緑字は小平奈緒選手のインタビュー等の内容からの引用です ※青字はアルフレッド・アドラーの言葉からの引用です

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