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項羽と劉邦から学ぶ“人間力としての真のリーダーシップ”とは?⑥ 〜部下のモチベーションを高める〜

  • 売上・集客拡大

前回は、“最適な役割分担を行う”をテーマにお話ししました。
項羽は軍事力最優先で、その他の経営資源を軽視したため、有効な役割分担ができなかった事。それに対して劉邦は、自分の好悪やその人間の出自、経歴、思想などにこだわることなく、その人の本質を見て各人の長所に着目。自分の抱える課題を克服するため、4つの経営資源の全てに最適人材を抜擢し、全権を与えて強いチームを作っていった事を実例をもとにお話しいたしました。
今回は、リーダーシップの成否を分ける事にもなる“部下のモチベーションを高める”についてです。

Chapter6 部下のモチベーションを高める

◆モチベーションの源泉は何か?

モチベーションとは、行動を起こすときの原因、すなわち動機を意味します。組織の中では仕事への意欲を指し、意欲を持つことや引きだすことを動機づけと呼んでいます。要するに一般的に言う“やる気”です。やる気の充満している組織は業績も当然高く、そのメンバー意識もポジティブなチームです。逆にモチベーションの低い組織は、活気も乏しく、スピード感もなく生産性の低い集団でしょう。
人のやる気の源泉は何か?モチベーションとはどこから湧いてくるのか?を知る事は、モチベーションアップのマネジメントの第一歩だと思います。
モチベーションの源泉を探る際、マズローの欲求五段階説が用いられる事が多いようです。人間の欲求を五段階に分類し、その欲求はどこに向かって進んでいくかについて理論化された説です。以下、その概略についてお話しします。
【第一段階】 生存の欲求 生きていくための基本的・本能的な欲求(食事・睡眠・排泄等の本能的・根源的な欲求)
【第二段階】 安全の欲求 危機を回避したい 予測可能な安心できる状態の欲求(雨風をしのぐ家・健康など)
【第三段階】 社会的欲求 孤独を回避したい(どこかに所属して仲間が欲しい)
【第四段階】 承認の欲求 自分が集団から価値ある存在と認められる事(他者から認められたい、尊敬されたい)
【第五段階】 自己実現の欲求 自分の持つ能力や可能性を最大限発揮して成長したい
マズローは最初の4つの欲求を欠乏欲求と呼び“満たされていないものが欲しい、所有したいと言う欲求”と定義し、第五段階の自己実現欲求を存在欲求あるいは成長欲求と言い、根本的に質が違うものだと言っています。
すなわち、人間は欠乏を回避して1から4までの欲求を満足させる事を最初に考えますが、それが充足されると成長欲求である自己実現を目指すようになるというのです。
モチベーションとは、こういった各種の欲求を刺激することによって、上がったり下がったりするもののようです。
そして、リーダがメンバーのモチベーションをアップさせる方法として、ダグラス・マクレガーは大きく分けて2つの手法があると言いました。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、いわゆるXY理論です。

・X理論・・・目標を達成したら褒美をあたえるかわりに、達成しなかったときに罰を設けるなどして強制的に働かせようとするマネジメント方法です。
存在欲求が満たされない状況のときには、競争が促されて効果がある方法だといわれています。
・Y理論・・・メンバーが高い意識を持っている前提で、かれらの目的を実現するためにチャンスを与えることでモチベーションを高めるマネジメント手法です。メンバーを信頼して仕事を任せる手法です。
それでは、項羽と劉邦はどのようにして、配下のモチベーションを高めようとしたのでしょうか?

◆項羽のモチベーションアップ手法
秦の始皇帝没後、各地で反乱がおきましたが、当時はまだ秦が強勢でした。章邯将軍がいたからです。章邯将軍は各地を転戦し、楚の項梁(項羽の叔父)を定陶の戦いで敗死に追い込むほか、連戦連勝を重ね次々に反乱軍を制圧していきます。その章邯率いる30万の大軍に項羽が7万という圧倒的に寡少な戦力で立ち向かって大勝利を挙げたのが鉅鹿の戦いです。その戦いを前にして、項羽が楚軍兵士に取らせた行動は以下のようなものでした。
鉅鹿に向かう為に、7万の兵士とともに黄河を渡った項羽は、「生きて再びこの黄河を渡ろうと思うな」と宣言した後、渡河に使った船を沈め、鉅鹿までの片道行程に必要な3日分の食料を残しすべて捨てさせます。さらに、炊事用の甑《こしき》(米などを蒸すための土器)や釜を叩き割りました。鉅鹿で死ぬ者に炊事道具は不要だという事です。
それを見た兵士は、項羽の行ったように、一斉に甑や釜を叩き割り始めます。7万人の楚軍兵士が狂ったように釜を叩き割るという同一行動をとりました。 『七万人が一つ行動をとって叩き壊しているうちに、激しい感情が、嵐が吹き抜けていくように人々の心に吹き続けた。――中略――集団がひとつ心になってしまった』

凄まじいばかりの光景だったと思います。項羽の「とことんまで勝利をもぎ取る為の、退路を断つという戦術」で項羽自身の大きな覚悟と決断を示しています。のちに語り継がれる、有名な「破釜沈舟」《はふちんしゅう》(意味:必死の覚悟で戦いに臨む)と言われるようになった伝説的な行為でした。これにより、楚軍は狂気を帯びた状態で進撃し、秦の章邯軍に立ち向かい大勝利を収めます。楚軍兵士はみんな“何かに取り憑かれたような血相”で、秦軍兵士たちは恐怖を覚えたという事です。
楚軍兵士たちが持つ項羽に対する神格的尊敬感情と宗教的崇拝意識があればこそのモチベーションアップ術だと思います。
また、項羽の場合には劉邦と違い、戦いに勝って城を占拠した後は、兵士たちの略奪や暴行行為を自由にさせたと言います。兵士と言っても元は流民であり、彼らは食を求めて集まってきた連中です。死を賭して戦いを行う以上、その勝利の暁には当然の報酬として略奪を許したわけです。
『兵は掠奪だけが楽しみなのだという事を項羽はよく知っていた。彼らが百戦の苦に耐えてここまでやってきたのは、その目で咸陽(秦の帝都)の美を見、その両腕に抱えられるだけの財宝を奪い、出来れば後宮へ駈け込んで美女を犯したいという一心からであった』 まさに、マクレガーのX理論に従って一貫して行っている手法で、人間のもつ欠乏欲求を徹底的に刺激するモチベーションコントロール手法だと思われます。

◆劉邦のモチベーションアップ手法
一方、劉邦はどうだったでしょうか?
彼は、“食”には徹底してこだわりますが、それをモチベーションアップの道具としては使いませんでした。それが生存欲求の根幹をなすものだったからです。 『彼が西北方へ行って昌邑(山東省金郷県)を奪ろうとしたのは、正規軍の戦略ではなく、流賊のそれだった。城よりも食糧と武器、それに寒さを防ぐ衣類が欲しかったのである』 劉邦は兵士たちに、食は必ず与えました。彼は食に対して非常に敏感でした。自分が飢えることを知っていたからです。食を保証しない限り、士卒が逃げ出す事を知っていたのです。 『劉邦は食糧に敏感な男だった。このことは才能と言えるものではなかった。彼は――中略――野盗を働いていた時も常に飢え、飢えれば戦も何もあったものではないという経験だけは嫌というほど積んでいた。一軍の将になった後も常に食糧を漁り歩き、兵を食わせる事を第一に置き、余力があれば作戦をやった。補給の感覚ばかりは劉邦は項羽に勝っていた』 また、籠って項羽と対抗する場所を選ぶ時も、“食”に徹底してこだわります。
項羽率いる主力の楚軍が大挙して攻めて来た時、劉邦は近くの城ではすぐに食糧が尽きる事を予感しました。 『劉邦はこの追い詰められた状況の中で、窮した者のみが持ちうる飛躍をした。防御は城、という観念から飛び越えて、いっそ食糧庫を抱きかかえて防戦しようと思った』 彼は、近くの城に籠らずに、秦帝国の官営の穀物倉が集まっている広武山西麓の山に登って、ここを要塞化します。言わば、飯櫃を抱きかかえての籠城(城ではないが)に等しい奇策に出ます。
劉邦は食を保証し、士卒=流民たちの間では、劉邦軍にいる間は“食”に飢えることが無いという安心感が広まります。マズローの言う1〜3の欲求(生存・安全・社会的欲求)は最大限保証するとして、これらをモチベーションアップの為の道具としては使いませんでした。
その上で、彼はモチベーションアップ方法として、人間の第四と第五の欲求、すなわち承認と自己実現の欲求を刺激する方法を用います。部下から食の不安を取り除いた後、報酬として生きがいを与えました。いわゆる働き甲斐です。彼は、生存欲求だけでは満足しない士卒に対し、積極的な献策・提言を求めます。才ある者は、智恵を絞って何かを考え、劉邦に直接提言する。劉邦はそれを選んで良策を採用し、採用したらその件に関する権限を与え、すべてをその献策者に任せたのです。言わば、自由に考えを述べさせ、採用後は権限と責任を与える。それにより志のある配下は“働き甲斐”という報酬を手にします。
韓信も陳平も楚軍にいる時には、この“働き甲斐”に飢えていました。張良も自分の戦略を聞いてくれる棟梁を探し求めていたのです。彼らだけではありません。それ以外の士卒たちも大なり小なり、役に立ちたい・自分の能力をフルに使いたいという働き甲斐を求めていたのです。
戦略立案のプロの張良がある時期、総大将となって直接戦闘指揮を行った時がありました。結果は上々できちんと出せたのですが、劉邦から張良に指揮権が移動したことの大きな弊害が出てきました。張良の策が正と奇を織り交ぜたような複雑なものが多かったため、周囲の者たちは張良の意図を忖度《そんたく》することに疲れ、結果的に張良の指示待ちという怠業状態に陥ってしまったのです。気付いた張良は劉邦に指揮権を返還します。
『これが、劉邦に指揮権が戻ると、幕下の者たちは劉邦の空虚を埋める為に各々が判断して、劉邦の前後左右でいきいきと動き回り、時にその動きが矛盾したり、基本戦略に反したりすることがあっても、全軍に無用の疲労を与えない』 言わば、これが働き甲斐です。項羽がマクレガーのX理論を使ったようなモチベーションアップ策だったのに対し、劉邦はY理論、すなわち意識の高いメンバーには、目的を実現するためにチャンスを与え、メンバーを信頼して仕事を任せる手法を使って彼らのモチベーションをアップしたのです。
X理論の項羽の手法が短期的に爆発的な効果を出す劇薬のようなものに対し、劉邦の用いたY理論は、爆発的な勢いはありませんが、長期的・安定的なやる気の創造を促す漢方薬を用いた体質改善のような効果がありました。

◆人はパンだけで生きるのではない
「人はパンだけで生きるのではない」という新約聖書の言葉の意味からは逸脱してしまいますが、現代社会において、パン(いわゆるカネなどの報酬)で働く人が少なくなってきたと思います。高度成長時代や好景気の時であれば、より儲けたい、もっとお金持ちになりたいというモチベーションで働く人が多かったように思いますが、現代においては大きく変わってきています。お金を目当てに働くというよりは、自分の能力の向上だとか、人の役に立ちたいという「働き甲斐」を動機とする人が増えてきているのです。
かつては報奨金を目当てとするキャンペーンによって大きくモチベーションをあげたことが多かったが、最近ではそういうキャンペーン施策では動かない人が増えてきたこともその一因だと思います。
P.F.ドラッカーもその数多くの著書の中で、
 ・知識労働者にとっても報酬は非常に大事
 ・報酬の不満は意欲をそぐ
 ・しかし、意欲の源泉は別のところにある
と言っています。では、意欲の源泉はどこにあるのでしょうか?
 第1に、組織が何をしようとしており、どこへ行こうとしているか?すなわち組織のビジョンの明確化が最低限のベース
 第2に、責任を与えられ、かつ自己実現すること そのためには最適な役割と配置が必要
 第3に、継続学習と継続訓練の機会をもつこと。すなわち自分の成長を実感できること
 第4に、敬意を払われること。とくに、自らの専門分野が敬意を払われること
 第5に、その専門分野では自らが決定を行なうこと
当コラムでもご紹介していますリーダーシップの条件である、ビジョン構築・最適役割分担・部下育成などがモチベーションアップの源泉と言えるようです。
すなわち、働く人のモチベーションは、
 ・組織のミッションがはっきりしている
 ・自ら権限と責任を持っている
 ・学び続ける環境がある
 ・自分自身の仕事がリスペクト(尊敬)されている
というベースがあって初めて生まれ持続して行くのだという事です。
現時点では今の会社に特に不満もない。仕事もそれなりにやっているし、金もそこそこ貰えて安定している。
でも今の会社を辞めて新しい事にチャレンジしたい。そう言って大会社を退職して行く人が増えてきたように思います。“働き甲斐”とは何か?以下がキーワードになります。
 ・自己実現
 ・自分の成長
 ・世の中に役立つ
 ・責任ある仕事
 ・一貫して任せられてもらえる
 ・やりたいことが提案できてカタチとして残せる
“食(今で言うところのおカネ)”の保証は絶対的に必要です。でも経済的な充足だけで満足する人が減ってきたのです。優秀な憧れのリーダの下で、そのコマとなって働きたいという人よりも、自分の持てる能力をフルに発揮してそれが世の中の為になり自分の成長にもつながる、そういう仕事を求める人が増えてきた為です。
リーダの役割は、メンバーにモチベーションアップをさせて強いチームを作り、生産性を上げることです。
それには、メンバーの話をよく聞き、そのタイプや考え方・生き方・人生の目的に合った動機付けを理解した上で、部下の長所を生かす役割を与え、権限を委譲して仕事を任せるというような効率的なマネジメントを実践することが今後求められるようになると思います。今から2200年以上も前に、すでに実践して天下を取った人物がいるのですから…。

◆まとめ

  • モチベーションは、人間の各種五段階の欲求に対する刺激の仕方によって、上がったり下がったりする
  • 項羽は“欠乏欲求”を刺激する報酬主体のモチベーションアップ策を採った
  • 項羽が用いた信賞必罰主義のX理論風モチベーションアップ策は、短期的に爆発的なモチベーション向上の効果をもたらすことがある
  • 劉邦は人間の最低限の欲求である“食”をまず保証し、その上で“働き甲斐”という報酬で“成長欲求”を刺激する事によってモチベーションアップを実現した
  • 最近はおカネの為だけでは働かなくなり、働き甲斐と自己実現を求めていく傾向が強くなってきている

次回は、リーダーシップの避けて通れない道“公平な評価を行う”をテーマにします。どうぞご期待ください。

(注)緑字の箇所は「項羽と劉邦」(司馬遼太郎著 新潮文庫)からの引用です

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